インボイス制度に関する個人事業主向けの補助金はある?申請方法を紹介

インボイス制度

インボイス制度の開始を機に、課税事業者および適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)になることを選択した個人事業主の方は少なくありません。
免税事業者から課税事業者およびインボイス発行事業者への転換によって懸念されるのが、税負担や事務負担が大きくなることです。
そこで国や自治体では、個人事業主向けにインボイス制度に関わる補助金や支援制度などを導入しています。

今回は、個人事業主が利用できるインボイス制度の補助金や支援制度について解説します。

インボイス制度に関する個人事業主向けの補助金はある?

個人事業主が課税事業者およびインボイス発行事業者になる場合、国や自治体が実施している補助金や支援制度を利用できます。
なぜ補助金、支援制度を導入しているのか、その理由は大きく分けて3つあります。

1. 経理負担の増加

インボイス発行事業者になると、インボイス制度に対応した適格請求書を発行する必要があります。
これまで採用されてきた区分記載請求書等保存方式では、以下5つが必須記載項目とされていました。[注1]

  • 請求書発行者の氏名または名称
  • 取引した年月日
  • 取引の内容
  • 税率ごとに区分して合計した税込対価の額
  • 請求書を受け取る側の氏名または名称

ところが、適格請求書等保存方式では、上記の項目に加え、新たに以下3つの項目を記載することが義務づけられています。[注1]

  • 適格請求書発行事業者の登録番号
  • 適用税率(8%または10%)
  • 税率ごとに区分した消費税額など

これら3つの項目を新たに追加した適格請求書を発行するには、ワークフローの見直しや新たなシステムの導入が必要となります。

また、他の個人事業主と取引があり、取引相手の中に適格請求書発行事業者と免税事業者が混在している場合、それぞれの請求書を仕分けする必要があります。なぜなら、インボイス制度開始後に仕入税額控除を利用するには、適格請求書が必要不可欠になるからです。[注2]

区分記載請求書等保存方式では必要なかった仕分け作業が新たに発生するぶん、経理負担が大きくなります。
インボイス制度に関する補助金や支援制度を利用すれば、インボイス制度対応のシステムを手軽に導入することが可能となり、適格請求書の作成・発行や請求書の仕分けといった経理負担の軽減を期待できます。

[注1]国税庁:適格請求書等保存方式の概要 p4、6
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf(参照2023/10/31)

[注2]国税庁:お問合せの多いご質問 p2
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0521-1334-faq.pdf

2. システム導入にともなうコスト増

前述のとおり、適格請求書は従来の区分記載請求書とは記載要件が異なるため、今まで使ってきたシステムの見直しが必要です。
インボイス制度に対応していないシステムを使っていた場合は、新たなソフトやツールを導入する必要があります。また飲食店などを経営している場合は、レジシステムの切り替えが必須となる可能性もあるでしょう。
例外として、小売業や飲食業など不特定多数の人を相手にする業種の場合は、普通の適格請求書よりも記載項目が少ない適格簡易請求書の交付が認められています。しかし、あくまで請求書を受け取る側の氏名や名称を省略できるだけなので、システムの見直しは必要不可欠です。

新たなシステムやツール、レジの導入には少なからずコストがかかるため、適格請求書発行事業者になった当初はまとまった初期費用が必要になります。
インボイス制度に関わる補助金や支援制度を利用すれば、これらのコストに対して一定の支援を受けることができ、初期費用の軽減につながります。

3. 税負担の増加による影響

従来は、課税事業者・免税事業者の別に関係なく、請求書があれば売上にかかる消費税から、仕入にかかる消費税を控除できる仕入額控除を適用することが可能でした。しかし、インボイス制度開始後は、仕入税額控除の利用に適格請求書の発行が必須となります。
インボイス制度開始後も引き続き免税事業者と取引を続ける場合は、仕入税額控除を利用できないぶん、税負担が増加することになります。

また、製品やサービスを提供する卸側にとっても、取引減や取引停止などのリスクを避けたいのなら、インボイス発行事業者への転換を検討しなければなりません。
インボイス発行事業者への登録は課税事業者のみが対象となるため、インボイス発行事業者に転換した場合、これまで免除されてきた消費税の納税義務を負うことになります。
国ではインボイス制度を巡る税負担のリスクを軽減するため、制度開始後6年間の経過措置を設けています。

インボイス制度に関する補助金の種類

個人事業主が利用できるインボイス制度に関する補助金や支援制度は複数あります。
ここではインボイス制度に関する補助金の種類と内容をまとめました。

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者が制度変更に対応するために行う取り組みの経費の一部を補助する制度のことです。[注3]
ここでいう小規模事業者の定義は業種によって異なりますが、一人で事業を行う個人事業主はどの業種であっても対象となります。
ただし、以下全ての要件を満たしていることが前提です。

  • 直近過去3年分の各年または各事業年度の課税所得の年平均額が15億円以下
  • 「小規模事業者持続化補助金に係る事業効果および賃金引上げ等状況報告書」を補助金の申請までに受領されること
  • 卒業枠(小規模事業者の従業員数を超えて事業規模を拡大する小規模事業者)で採択された事業者でないこと

補助が適用された場合、制度変更への取り組みにかかった費用のうち、一部の金額を補助してもらえます。
補助率は一律2/3(条件によっては3/4)ですが、補助上限額は取り組み内容によって区分された申請類型ごとに異なります。
個人事業主の場合、以下のどちらかの枠を利用するのが一般的です。

  • 通常枠:自分で作成した経営計画をもとに、商工会や商工会議所の支援を受けながら取り組みを行う小規模事業者が対象
  • 創業枠:特定創業支援等事業の支援を受けながら取り組みを行う、創業した小規模事業者向け

なお、インボイス制度への取り組みに関しては、通常の補助上限額に50万円が上乗せされる「インボイス特例」が適用されます。

小規模事業者持続化補助金の補助対象になる経費は以下のとおりです。

  1. 機械装置等費
  2. 広報費
  3. ウェブサイト関連費
  4. 展示会等出展費
  5. 旅費
  6. 新商品開発費
  7. 資料購入費
  8. 雑役務費
  9. 借料
  10. 設備処分費
  11. 委託・外注費

このうち、インボイス制度に対応するための経費として認められる主な経費は1、3、7、8、10です。

例えば個人で飲食店を経営しており、インボイス制度対応のためのレジやPOSシステムなどの導入が必要になった場合、1や3のケースに該当します。
また、新たなレジの導入にともない、古いレジを廃棄しなければならない場合に該当するのは10です。インボイス制度への理解を深めるために書籍を購入した場合は7、請求書の発行業務を臨時的に雇い入れた第三者に委託した場合は8に該当します。
ただし、3に関してはウェブサイト補助金交付申請額の1/4が申請額の上限となるほか、3単体のみの申請は不可能である点に注意が必要です。
また、インボイス制度を機に、請求書を手書きからデジタルにしようと検討される方もいるかもしれません。しかし、小規模事業者持続化補助金は、原則として制度変更への対応に特化したものでなければ補助対象外となります。
例えばパソコンは、適格請求書の作成以外のさまざまな用途に使える汎用性の高いものなので、補助の対象にはなりません。
パソコンの導入を検討する場合は、次項で紹介するIT導入補助金を利用しましょう。

[注3]全国商工会連合会:小規模事業者持続化補助金<一般型>第14回公募 公募要領 p2、4~20
https://www.shokokai.or.jp/jizokuka_r1h/doc/2023/%E4%B8%80%E8%88%AC%E5%9E%8B_%E5%85%AC%E5%8B%9F%E8%A6%81%E9%A0%98_%E7%AC%AC10%E7%89%88.pdf?0915(参照2023/10/31)

IT導入補助金

IT導入補助金とは、中小企業や小規模事業者の労働生産性向上を支援することを目的とした補助金です。[注4]
目的に沿ったITツールを導入した場合、その枠や類型に応じて、導入費用の1/2~3/4以内で補助を受けることができます。

IT導入補助金の枠と類型は複数あります。インボイス制度への対応が該当するのは、デジタル化基盤導入枠のデジタル化基盤導入類型です。
補助率は導入したツールの種類によって異なります。ソフトウェアやアプリ、サービスなどのITツールは総費用の3/4以内(補助額は50万円以下)、または2/3以内(補助額は50万円超~350万円)で補助を受けられます。
一方、パソコンなどの場合は1/2以内(補助額は10万円以下)、レジなどは1/2以内(補助額は20万円以下)です。
具体的な対象経費には、ソフトウェア・ハードウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入関連費などがあります。
小規模事業者持続化補助金では補助対象外であるパソコンの購入費も対象となるため、インボイス制度開始を機にパソコンの購入を検討している個人事業主の方に適した補助金です。

[注4]IT導入補助金2023:デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)
https://www.it-hojo.jp/first-one/digital-type.html(参照2023/10/31)

2割特例

こちらは補助金ではありませんが、一定の人を対象に、インボイス制度開始から6年に亘って税負担を軽減する措置が適用されます。[注5]
対象となるのは免税事業者からインボイス発行事業者になり、かつ2年間の課税売上が1,000万円以下の人です。
適用対象となる人は、制度開始から3年間(個人事業主は令和5年10~12月の申告から令和8年分の申告まで)、売上税額の2割が納税額となります。

なお、2割特例の適用にあたり、事前の届出などは不要です。消費税の確定申告を行う際、申告書に2割特例の適用を受ける旨を記載すれば適用を受けることができます。

[注5]国税庁:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm(参照2023/10/31)

経過措置

インボイスへの対応によって生じる税負担を軽減するための措置です。制度開始から3年間は、免税事業者と取引した場合でも、8割の仕入税額控除を適用できます。[注2]
その後の3年間についても、5割の仕入税額控除を利用することが可能です。
課税事業者となった個人事業主が、免税事業者である他の個人事業主と取引する場合の税負担を軽減できるところが利点です。
なお、経過措置の適用に申請は必要ありません。

[注2]国税庁:お問合せの多いご質問 p2
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0521-1334-faq.pdf(参照2023/10/31)

インボイス制度に関する補助金の申請方法

小規模事業者持続化補助金と、IT導入補助金(デジタル化基盤導入枠<デジタル化基盤導入類型>)の申請方法を紹介します。

小規模事業者持続化補助金の申請方法

小規模事業者持続化補助金の申請方法の手順は以下のとおりです。[注3]

[注3]全国商工会連合会:小規模事業者持続化補助金<一般型>第14回公募 公募要領 p9~14
https://www.shokokai.or.jp/jizokuka_r1h/doc/2023/%E4%B8%80%E8%88%AC%E5%9E%8B_%E5%85%AC%E5%8B%9F%E8%A6%81%E9%A0%98_%E7%AC%AC10%E7%89%88.pdf?0915(参照2023/10/31)

申請の準備

補助金申請に必要となる以下の書類を準備します。

  • 小規模事業者持続化補助金事業に係る申請書
  • 経営計画書兼補助事業計画書①
  • 補助事業計画書②
  • 事業支援計画書
  • 補助金交付申請書
  • 宣誓・同意書
  • インボイス特例の申請に係る宣誓・同意書
  • 直近の確定申告書または開業届
  • 電子媒体(郵送申請する場合のみ)
  • 適格請求書発行事業者の登録通知書の写し(登録済みの事業者)
  • 登録申請データの「受信通知」(e-Taxで登録手続き中の事業者)
  • 「特定創業支援等事業」による支援を受けたことの証明書の写し(創業枠利用の場合)
  • 開業届(税務署受付印のあるもの)の写し(創業枠利用の場合)

申請手続き

電子申請または郵送申請のいずれかの方法で申請します。窓口への持参による手続きは不可ですので注意しましょう。
なお、商工会・商工会議所の地区によって申請先が異なる点にも注意が必要です。
電子申請を行う場合は、補助金申請システムを利用します。システムの利用にはgBizIDプライムのアカウントが必要です。アカウントの取得まで数週間ほどかかるので、早めに手続きを行いましょう。

申請内容の審査・採択・交付の決定

提出した書類とその内容をもとに、審査が行われます。

採択された場合、交付通知決定書が通知されます。

取り組みの実施

補助金の対象となる補助事業の実施(システムの導入など)を行います。

取り組みの実施は、交付決定日から補助事業実施期限までに発注と支払いを済ませる必要があります。期限を過ぎた場合は補助の対象にならないため、注意しましょう。

実績報告書を提出する

取り組みを完了したら、補助事業の実施内容と経費の内容をまとめた実績報告書を提出します。
取り組みの終了から30日を経過した日、または最終提出期限のいずれか早い日が期限となるので要注意です。

補助金額の確定、請求、入金

実績報告書などの書類をもとに確定検査が行われ、補助金額が決まります。
送付された補助金確定通知書を確認し、補助金事務局にて生産払請求を行うと、補助金が入金されます。

事業効果の報告

取り組みの完了から1年後に、事業効果および賃金引上げといった状況報告を文書などで作成、提出します。

IT導入補助金の申請方法

IT導入補助金の申請方法は以下のとおりです。[注7]

[注7]IT導入補助金2023:IT導入補助金2023 公募要領:P18~28
https://www.it-hojo.jp/r04/doc/pdf/r4_application_guidelines_digital.pdf

IT導入支援事業者へITツールの相談をする

よろず柄支援拠点や商工会、商工会議所などのIT導入支援事業者に、インボイス制度対応のために必要なITツールの選択などを相談します。
相談は任意ですが、どのようなツールを導入すればよいかわからない場合は支援機関を頼りましょう。

ITツールを決定する

インボイス制度対応に必要なITツールを決定します。

必要書類を用意する

以下3つの書類を用意します。

  • 本人確認書類
  • 事業実態確認書類1
  • 事業実態確認書類2

2は税務署で発行された直近分の所得税の納税証明書、3は税務署が受領した直近分の確定申告書の控えです。

アカウントの取得

補助金の申請に必要なgBizIDプライムのアカウントを取得します。

交付申請を行う

IT導入支援事業者から申請マイページの招待を受け、当該ページで必要事項を入力し、申請手続きを行います。

交付の決定

申請内容をもとに審査が行われ、交付が決定されたら申請マイページにて通知が行われます。

取り組みの実施および事業実績報告を行う

インボイス対応への取り組みを実施し、その実績を報告します。
実績報告時には、請求や支払いにかかる書類などが必要になります。

補助金の入金および事業実施効果報告

指定の口座宛に補助金が入金されます。
取り組み実施後は、指定期間内に事業実施効果報告を行う必要があります。

個人事業主は補助金を活用してインボイス制度に対応しよう

インボイス制度に対応しようとすると、経理負担や税負担、コスト負担が増加します。
小規模事業者持続化補助金やIT導入補助金などの補助金を利用し、インボイス制度に対応するための環境を整えましょう。 制度によって申請方法が異なるほか、各種書類の用意や手続きには相応の時間がかかるので、早めに手続きすることをおすすめします。

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