インボイス制度導入にあたって、企業はインボイスの発行および受領の体制を新たに整える必要があります。
そのうちの一つがインボイス対応ソフトの導入ですが、中小企業や小規模事業者のなかには「自社にインボイス対応ソフトが必要なのか」「大手企業向けなのではないか」といった不安を感じている方も少なくありません。
本記事では、中小企業や小規模事業者がインボイス対応ソフトを導入するメリットや、インボイス対応ソフトを選ぶときのポイント、中小企業・小規模事業者におすすめのインボイス対応ソフトを紹介します。
中小企業・小規模事業者がインボイス対応ソフトを導入するメリット
中小企業や小規模事業者がインボイス対応ソフトを導入するメリットは大きく分けて4つあります。
区分管理が容易になる
インボイス制度開始後は、適格請求書(インボイス)を発行・受領することになりますが、インボイス発行事業者以外の事業者は従来通りの区分記載請求書を発行します。
仕入税額控除の適用対象となるのは適格請求書のみなので、適格請求書と区分記載請求書の両方を受領した場合、きちんと区分して管理しなければなりません。
適格請求書と区分記載請求書は記載事項に違いがあるので、よく観察すれば見分けは容易ですが、外観が似ているので混同してしまうおそれがあります。
両者を混同してしまった場合、仕入税額控除の適用漏れが発生したり、あるいは仕入税額控除の過剰申請が発生したりするリスクが高くなってしまいます。
インボイス対応ソフトを導入すれば、区分記載請求書と適格請求書の区分管理をシステム化できるため、両者の混同や区分ミスなどを予防できます。
消費税額を正しく計算できる
インボイス制度導入前までは、消費税の端数計算は購入した商品ごとに行われていました。
しかし、インボイス制度導入後は、消費税の端数処理は一の適格請求書につき、税率ごとに1回ずつとなります。[注1]
適格請求書においては、個々の商品ごとに消費税額を計算してから端数処理を行い、その合計額を「税率ごとに区分した消費税額等」として記載することは認められません。
実際、認められる計算方法と、認められない計算方法では請求書の内容・金額が同じでも端数処理の結果が異なる場合があるため、適格請求書では正規の方法で計算する必要があります。
インボイス対応ソフトなら、適格請求書の消費税額の計算方法に対応しているため、正しい計算を行えます。
[注1]国税庁:適格請求書等保存方式の概要 P9
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf(参照2023/12/12)
インボイスを簡単に発行できる
前述の通り、区分記載請求書と適格請求書では記載すべき項目に違いがあります。
適格請求書では、区分記載請求書の記載項目に加え、新たに適格請求書発行事業者の登録番号と適用税率、消費税額などを追加して記載しなければなりません。
インボイス対応ソフトなら、適格請求書に記載すべき項目があらかじめ組み込まれているため、自分で請求書のフォーマットを変更しなくても簡単に適格請求書を作成できます。
フォーマットやテンプレート通りに適格請求書を発行すれば、記載漏れを防ぐことが可能です。
電子帳簿保存法にも対応している
電子帳簿保存法の改正にともない、2024年1月1日以降は、電子取引によってやり取りした書類(請求書など)はすべて電子データとして保存することが義務づけられることになりました。[注2]
請求書を電子化するには、電子帳簿保存法で定められた保存要件を満たしている必要があります。
インボイス対応ソフトは電子帳簿保存法にも対応しているため、電子取引によるやり取りの電子化が義務化された後も保存要件を満たした請求書を発行できます。
[注2]国税庁:電子帳簿保存法が改正されました P4
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021012-095_03.pdf(参照2023/12/12)
中小企業・小規模事業者のインボイス対応ソフトの選び方
中小企業・小規模事業者がインボイス対応ソフトを選ぶときにチェックしたいポイントを5つ紹介します。
インボイスの登録番号を自動でチェックできるか
適格請求書を発行できるのは、あらかじめ登録を済ませたインボイス発行事業者のみです。
そのため、適格請求書を受領する側は、発行元が確かにインボイス発行事業者であるかどうかを、請求書に記載された登録番号から確認する必要があります。
国税庁では、利用者が保有するシステムからインターネット経由で簡単なリクエストを送信することで、登録番号に紐付けられた情報を取得できる「適格請求書発行事業者公表システムWeb-API機能」を提供しています。
Web-API機能に対応したソフトなら、自動で登録番号をチェックできるため、手動で確認する手間を省けます。
インボイス対応ソフトを導入するのなら、国税庁のWeb-API機能に対応しているものを選ぶのがおすすめです。
仕訳支援機能の有無をチェック
紙の適格請求書を取り扱うことがある場合は、仕訳支援機能がついているかどうかもチェックしたいところです。
仕訳支援機能がついているソフトなら、紙の適格請求書をスキャンで読み込んだ際、請求金額や発行元の名称などを読み取り、自動で仕訳してくれます。
手動で仕訳するよりも時間と手間を省けるため、特に大量の請求書を取り扱う企業では仕訳支援機能がついたソフトを選んだ方がよいでしょう。
電子帳簿保存法に対応しているかチェック
インボイス対応ソフトの多くは電子帳簿保存法に対応していますが、なかには非対応のソフトが含まれている可能性もあります。
電子帳簿保存法は一定の保存要件を提示しており、要件を満たさなければ国税関係の正式な帳簿・書類として認めてもらえません。
仕入税額控除の適用に影響が及ぶのはもちろん、経費の計算などにも支障を来すおそれがあるため、インボイス対応ソフトを導入する際は必ず電子帳簿保存法に対応しているかどうかを確認しておきましょう。
セキュリティ機能をチェック
インボイス対応ソフトでは、取引先の情報や請求書の内容といった機密情報を多数取り扱います。
セキュリティが脆弱なソフトを利用すると、企業情報や個人情報が外部に漏洩するリスクが高くなります。一度情報を漏洩させると企業としての信用を失い、取引先からも見限られてしまうおそれがあります。
そのためインボイス対応ソフトを導入する際は、ソフトを利用できる人間を制限・管理できるかなど、セキュリティ機能が搭載されているかどうかをチェックしておくとよいでしょう。
コストをチェック
インボイス対応ソフトの導入費や月額料金は製品によって異なります。
特に月額料金は製品・サービスを利用している間、ずっと支払っていくものなので、無理なく使い続けていけるソフトを選ぶことが大切です。
無料のお試し期間があるソフトなら、事前に使い勝手を確かめられるので、費用対効果が高いかどうか確認しやすいでしょう。
【中小企業・小規模事業者向け】インボイス対応ソフトおすすめ7選
中小企業や小規模事業者向けにおすすめのインボイス対応ソフトを7つピックアップしてご紹介します。
楽楽明細
インボイスを含む請求書、納品書、支払明細などの帳票をWeb上で発行できるクラウド型のインボイス対応ソフトです。
インボイス発行側は、帳票データのCSVまたはPDFを楽楽明細にアップロードし、受領側のニーズに合った方法を選択するだけで帳票を発行することが可能です。また受領側は、Webからダウンロード、メール添付、郵送代行、FAXの4パターンから好みの方法で受け取れるので、自社に適した方法で請求書を保管できます。
もちろん、改正電子帳簿保存法とインボイス制度にもしっかり対応。発行した電子帳票はそのまま電子データとして一元管理できるので、ファイリングの手間もいりません。
初めてインボイス対応ソフトを使う方でも直感的に操作できるよう、わかりやすいインターフェースを採用しているため、初心者にもおすすめです。
公式ページ:楽楽明細
インボイスJP
SNSをモチーフにして開発されたSNS型電子取引を採用したインボイス対応ソフトです。
顧客や取引先と連絡先を交換し合った後は、見積書や請求書、注文書などの文書をチャット感覚でやり取りできます。
連絡先交換の際、インボイス登録番号やそのほかの情報も交換できるので、インボイス発行・受領の手間を省けるところが魅力です。
作成した請求書ファイルはソフトの画面上にドラッグ&ドロップするだけ。送信したファイルは一覧で表示される仕組みになっており、請求書の保管場所として活用できるのはもちろんのこと、社内ユーザーと共有することも可能です。
インボイスを受領する側は、受け取りと同時にお知らせメールが届く仕組みになっているので、受領漏れの心配はなし。インボイス登録番号はシステムで自動チェックされるので、いちいち手動で確かめる必要はありません。
また改正電子帳簿保存法にも対応しているため、そのまま保管しておけば正式な国税書類として申告に使えます。
料金プランは無料と有料の2種類があり、無料プランでも文書の送受信枚数に制限はないのでコストを節約したい方におすすめです。
公式ページ:インボイスJP
freee会計
オフィスはもちろん、テレワークにも対応できるクラウド型のインボイス対応ソフトです。
外部サーバーでデータをやり取りする仕組みになっているため、オフィスに出社する必要がなく、自宅でテレワークをしながらインボイスのやり取りを行えます。
ソフトのアップデートはオンラインを通じて自動で行われるため、法令の変更があってもリアルタイムで対応することが可能です。
freee会計と、現在使っている銀行口座やクレジットカードを同期させれば、明細をもとに自動入力・自動仕訳されるので、帳簿付けの手間も大幅に省くことが可能。
決算書もボタンを押すだけで作成できるため、帳票関連の業務効率化に役立ちます。
初期費用や解約料は無料。有料プランとほぼ同じ機能を使える無料版もあります。
公式ページ:freee会計
ジョブカン見積/請求書
紙に書き込むような感覚で請求書や見積書を手軽に作成できるインボイス対応ソフトです。
ソフトで作成できるインボイスは、色の変更や会社印・企業ロゴの挿入などにも対応。
作成したデータはクラウド上で管理可能で、必要なデータは検索機能ですぐにチェックできます。
書類データには「作成済」「請求済」「納品済」などのステータスが表示されるため、請求書の作成漏れ、送信漏れなども防げます。
ジョブカン会計など、ほかの会計ソフトと連携すれば、売上データの取り込みや試算表への反映なども自動で行われるため、会計作業にかかる手間を大幅にカットできます。
管理権限の設定や見積書・請求書の作成権限を設定すれば、セキュリティも万全です。
初期費用やサポート費用は0円。30日間の無料お試しサービスもあります。
公式ページ:ジョブカン見積/請求書
MISOCA
簡単操作で請求書・見積書・納品書を作成できるクラウド型のインボイス対応ソフトです。
あらかじめ各種テンプレートが用意されているので、あらかじめ取引先や品名などを登録しておけば、作成時には該当の項目を選択するだけでOK。
シンプルなクリック操作で見積書から納品書・請求書に変換したり、請求書から領収書・検収書へ変換したりできるので、転記ミスや記載漏れを予防できます。
さらにPDFの発行やリンクの共有、郵送、メール送信もワンクリックで完了するため、請求書の作成から送付までの業務を効率化できます。
プランはニーズに応じて4種類ラインナップされており、ずっと0円で使える無料プランもあり。無料でも月額見積書や納品書は無制限で作成できるほか、請求書の自動作成にも対応しています。
公式ページ:MISOCA
TOKIUMインボイス
受け取った請求書を完全ペーパーレス化できるクラウド型のインボイス対応ソフトです。
紙やPDFなどの形式にかかわらず、あらゆる請求書を受領代行し、システム上で自動データ化してくれるところが大きな特徴。
請求書に記載された金額や日付・口座情報などを99%以上の精度で自動データ化してくれるため、システムに手入力する手間をカットできます。
インボイス番号のデータ化や突合点検などもソフトが代行してくれるため、インボイス制度への対応プロセスを最小限に抑えられます。
取引相手には送付先を変更してもらうだけなので迷惑をかける心配はなし。送付先変更の連絡もTOKIUMが代行してくれるので安心です。
公式ページ:TOKIUMインボイス
BtoBプラットフォーム 請求書
請求書の発行から受け取り、支払金額の通知まで、請求業務全体をデータ化してくれるインボイス対応ソフトです。
請求書の発行は販売管理システムの売掛データをプラットフォームに取り込むだけでOK。
電子請求書なので発行コストを削減できるほか、取引先の請求書確認状況もわかるので、相手が請求書を確実に受け取ったかどうかもチェックできます。
相手が紙での発行を望んだ場合は郵送代行サービスにも対応しているため、取引先に手間や迷惑をかける心配はありません。
受領側は学習機能によって部門・勘定科目を自動仕訳する機能がついているため、請求書関連の作業スピードを向上させられると共に、人的ミスの発生も防げます。
料金は請求書の受け取り・発行込みで2万円~とリーズナブルです。
公式ページ:BtoBプラットフォーム 請求書
中小企業・小規模事業者もインボイス対応ソフトの導入がおすすめ
2023年10月より始まったインボイス制度により、企業は適格請求書(インボイス)への対応が必要となりました。
インボイスは従来の請求書とは記載項目が異なるほか、消費税の計算方法などにも違いがあります。
また、仕入税額控除の関係により、従来の請求書とは分けて管理しなければならず、請求書関連の手間が増えることが懸念されています。
インボイス対応ソフトを導入すれば、制度に対応したインボイスを手軽に作成できる上、受領した請求書の仕訳も手軽に行うことが可能です。
業務を効率化できるのはもちろん、人的ミスのリスクも低減できるので、一石二鳥の効果を期待できます。
新しいシステムの導入には費用がかかるというイメージがありますが、インボイス対応ソフトのなかには中小企業・小規模事業所に適した安価なソフトもあるので、インボイス制度への対応にお困りの方は、ぜひインボイス対応ソフトの導入を検討してみましょう。


