税制面でメリットのあるふるさと納税は、納税者の多くが利用している制度です。
個人事業主も例外ではありませんが、会社員と個人事業主ではふるさと納税の申告方法に違いがあるため、あらかじめ注意が必要です。
今回は、個人事業主がふるさと納税を利用するメリットや、ふるさと納税によって期待できる節税効果、ふるさと納税を行う際に注意したいポイントを解説します。
ふるさと納税とは、応援したい自治体に寄付できる制度のこと
ふるさと納税とは、任意の自治体に寄付できる制度のことです。
「ふるさと」という名前から、寄付先は生まれ故郷や現在住んでいる自治体に限定されると思われがちですが、寄付をする自治体の選択に制限はなく、好きなところに寄付することができます。
ふるさと納税を行うと、寄付金のうち2,000円を超える部分について、所得税の還付および住民税の控除を受けられるところが特徴です。
また、多くの自治体ではふるさと納税で寄付をしてくれた方への御礼として、返礼品を提供しています。返礼品は自治体によって異なりますが、地域の名産品など魅力的な品を設定しているところが多いようです。
個人事業主がふるさと納税をするメリット
個人事業主がふるさと納税をすると、以下のようなメリットが期待できます。
返礼品を受け取れる
ふるさと納税を利用すると、寄付した自治体から返礼品が送られてきます。
返礼品の内容は自治体によってさまざまですが、大まかなカテゴリに分けると以下のようなものがあります。
- 食品
- 旅行
- イベント・チケット
- スポーツ・アウトドア
- 雑貨・日用品
- 美容
- ファッション
- 家具
最も多いのは食品類で、肉類や米、魚介類、野菜、果物の他、飲料や酒、菓子などの嗜好品を提供しているところもあります。その地域ならではの特産品が送られてくることも多く、お取り寄せ感覚で日本全国のグルメを楽しめます。
他にも、イベントのチケット、スポーツ用品、日用雑貨、ファッションなど、生活やプライベートを豊かにする返礼品がラインナップされています。
各々の返礼品には寄付額が設けられていますが、中には税額控除の下限である2,000円で返礼品の贈呈を受けられるところもあります。
少ない負担から魅力的な返礼品を手に入れられるのがふるさと納税の魅力です。
手間をかけずに申告できる
ふるさと納税で後述する控除を受けるには、確定申告を行う必要があります。
年末調整を受ける会社員の場合、自分で確定申告を行うのは手間になりますが、個人事業主はもともと確定申告を行う必要があるため、ふるさと納税によって新たな手間が増えることはありません。
いつもの確定申告とほぼ同じ手間で控除のメリットを受けられるのが大きな利点です。
所得控除や税額控除を受けられる
ふるさと納税では、2,000円を超える部分について「寄附金控除」と呼ばれる控除を受けられます。
寄附金控除とは、納税者が国や地方自治体、特定公益増進法人などに対して特定寄付金を支出した場合に適用される所得控除のことです。
ふるさと納税を利用した場合、(ふるさと納税額-2,000円(自己負担金))×所得税率の計算式で求めた所得税分が、本来の所得税から控除されることになります。
なお、住民税からの控除については、基本分と特例分の2つがあり、ふるさと納税の場合は基本分に特例分を合算した額が控除額となります。
基本分の控除額の計算式は以下の通りです。
(ふるさと納税額-2,000円)×10%
一方、特例分の控除額の計算式は以下の通りです。
(ふるさと納税額-2,000円)×(100%-10%(基本分)-所得税率)
ただし、上記計算式で計算した特例分が住民税所得割額の2割を超えた場合は、以下の計算式を用います。
住民税所得割額×20%
個人事業主がふるさと納税をすることによる節税効果
個人事業主がふるさと納税を行うと寄附金控除を受けることができます。
ただ、寄附金控除を受けるためには、任意の自治体に2,000円を超える寄付を行わなければなりません。
例えば、ある自治体に3万円を寄付した場合、自己負担分を差し引いた28,000円が控除されますが、残り2,000円はマイナスになります。
そもそも、ふるさと納税を利用した寄附金控除は税金の前払いであり、支払った分の還付を受けているだけです。
税金そのものを節約できているわけではないため、節税目的での利用は控えた方がよいでしょう。
ただ、ふるさと納税を利用すると返礼品を受け取れるため、単に納税するよりもお得になります。
例えば返礼品の中に元から欲しいものがあった場合、普通に購入するよりも所得控除や税額控除が適用されるふるさと納税を利用して手に入れた方が、トータルで見ると節約になります。
個人事業主がふるさと納税をするときの注意点
以下では、個人事業主がふるさと納税を利用する際に注意したいポイントを3つご紹介します。
上限額がわかりにくい
ふるさと納税によって適用される控除の額は、納税者の所得額に応じて決められています。
所得控除の対象となるふるさと納税額の上限額は、総所得金額等の40%です。
また、住民税控除の対象となるふるさと納税額の上限額は、総所得金額等の30%です。
年間の収入がほぼ一定の会社員とは異なり、個人事業主は月や年ごとの収入が変動しやすいため、その年の控除限度額を把握しにくい傾向にあります。
ふるさと納税では、控除限度額を超えた分は自己負担となるため、控除限度額の範囲内でふるさと納税を利用したいという方は注意が必要です。
手元のキャッシュが減少する
ふるさと納税では、寄附金額から自己負担金の2,000円分を差し引いた額を控除できますが、それには自治体に一定の金額を寄付する必要があります。
控除分は戻ってきますが、2,000円分の自己負担金は減ることになります。
また、ふるさと納税の控除が適用されるのは、翌年の所得税と住民税です。
寄付した金額が還付という形で戻ってくるまでにはかなりの時間を要するため、手元のキャッシュが心許ない場合は要注意です。
なお、所得税の還付および住民税の控除を受けられるタイミングは以下の通りです。
- 所得税の還付:確定申告から1~2ヵ月後
- 住民税の控除:確定申告から約3ヵ月後
確定申告は毎年2月15日~3月16日の間に行われるため、所得税の還付を受けられるのはふるさと納税を行った翌年の4月~5月。住民税の控除を受けられるのはふるさと納税を行った翌年の6月頃となります。
ふるさと納税に期限はなく、原則として1年中受け付けしているため、年末近くに利用すれば、納税から還付までの期間を短くすることが可能です。
ただし、ふるさと納税の返礼品の在庫には限りがあり、人気の品は早い段階で取り扱い終了になってしまうことがあります。
ふるさと納税の利点は控除を受けながら返礼品を受け取れることにあるため、目当ての返礼品がなくなってしまってはメリットが減少してしまいます。
目当ての返礼品を取るか、還付金受取までの期間を短縮するか、慎重に検討する必要があります。
ワンストップ特例制度の対象外である
ワンストップ特例制度とは、確定申告を行わずにふるさと納税の控除を受けられる制度のことです。
ふるさと納税の納税先が1年間で5自治体以内であれば、ワンストップ特例制度を利用することができます。会社員の方が利用すれば、これまで通り、会社の年末調整を受けるだけで済むため、申告の手間を省けます。
ただ、個人事業主はふるさと納税を利用するか否かにかかわらず、毎年確定申告を行わなければなりません。当然、ワンストップ特例制度の対象にはなりませんので、あらかじめ注意しましょう。
個人事業主がふるさと納税をするときの流れ
個人事業主がふるさと納税をして、確定申告するまでの流れを説明します。
ふるさと納税の控除上限額をチェックする
ふるさと納税の控除額には上限額があります。上限を超えた分は自己負担となるので、控除の範囲内でふるさと納税を行いたい場合は、まず自分の控除上限額をチェックしておく必要があります。
控除限度額は年収とは別に、納税者の家族構成も控除上限額に影響します。
具体的には、配偶者控除または配偶者特別控除の対象となる配偶者の有無と、扶養控除の対象となる扶養親族の有無および数によって上限額が変動します。
上記の条件を踏まえ、ふるさと納税の控除上限額のシミュレーションでは、家族構成を「独身または共働き」「夫婦」の2つに区分し、さらに子どもを「中学生以下」「高校生」「大学生」の3つに分けています。
ふるさと納税を行う本人の給与収入に対し、最も控除上限額が大きくなるケースは「独身または共働き」のケースです。
一方で、最も控除上限額が小さくなるのは「夫婦+子2人(大学生と高校生)」のパターンです。
ここでいう「共働き」とは、ふるさと納税者が配偶者控除を受けていない(配偶者の給与収入が201万円超)ケースのことです。また「夫婦」とは、ふるさと納税者の配偶者に収入がないケースを意味します。
「夫婦」の場合、別途配偶者控除が適用されるため、ふるさと納税の控除限度額は低く設定され、「独身または共働き」の場合は、配偶者特別控除が適用されない分、ふるさと納税の控除限度額は高く設定されています。
同様に、扶養控除の対象とならない中学生以下の子がいる世帯では、控除を受けられる扶養親族(16~18歳)や特定扶養親族(19~22歳)がいる世帯よりも、ふるさと納税の控除限度額が高く設定されています。
このように、ふるさと納税の控除上限額はさまざまな条件によって細かく設定されているので、ふるさと納税ポータルサイトにあるシミュレーションを利用して確認することをおすすめします。
ふるさと納税をする自治体を決める
控除上限額がわかったら、ふるさと納税をする自治体を決めます。
自分の住所地や故郷に限らず、応援したい自治体や、返礼品が魅力的な自治体、寄附金の使い道に共感できる自治体など、好きな観点で決めてかまいません。
選び方に迷ったら、好みの返礼品から逆検索するのもおすすめです。ふるさと納税のポータルサイトを利用すれば、返礼品のカテゴリから自治体を絞り込み検索することもできるので、上手に活用してみましょう。
なお、ふるさと納税をする自治体は1つに限らず、複数選んでもOKです。
会社員の場合、ワンストップ特例制度の適用は5自治体以内という制限がありますが、もともと同制度を利用できない個人事業主の場合は数による制限はないので、好きな数だけ申し込めます。
ただし、ふるさと納税の寄附金控除には上限があるので、控除範囲内で寄付したいという方は、寄付額の合計に注意しましょう。
ふるさと納税を申し込む
控除上限額をチェックし、納税をする自治体を決めたら、実際にふるさと納税の申し込みを行います。申し込み方法は自治体によって異なりますが、ふるさと納税のポータルサイトを利用すれば、サイトを介して自治体に申し込むことも可能です。
自治体に直接申し込む場合は、自治体の公式サイトや電話、メール、窓口などで受け付けています。自分の都合に合わせて申し込みやすい方法を選びましょう。
寄付をする
申し込み後、自治体に任意の額の寄附金を納付します。
納付方法は自治体によって異なりますが、ふるさと納税のポータルサイトを使う場合はクレジットカードや電子決済サービス、銀行振込、郵便振替、現金書留、自治体に直接持ち込むなど複数の方法から好きなものを選べます。
ただ、利用可能な決済方法は自治体によって異なるため、決済方法にこだわりがある場合は事前に確認しておきましょう。
返礼品と寄附金受領証明書を受け取る
ふるさと納税を利用すると、自治体から寄附金受領証明書と返礼品が送られてきます。
寄附金受領証明書は確定申告で必要になる書類なので、大切に保管しておきましょう。
ふるさと納税ポータルサイトを利用した場合、マイページなどからそのサイトを介して納付したふるさと納税の年間寄付額をまとめて証明書が発行されます。ふるさと納税を複数回行った方はこちらの方法を利用した方が管理が楽になります。
寄附金受領証明書や返礼品が送られてくるタイミングは自治体によって異なるので、気になる方は直接自治体に問い合わせてみましょう。
確定申告する
ふるさと納税を利用したら、翌年の2月15日~3月16日の確定申告で寄附金控除の申告を行います。寄附金控除を受けるには、ふるさと納税をした自治体から送付される寄附金受領証明書が必要です。
確定申告書を作成する際は、確定申告書Bの寄附金控除の欄に寄付した金額を記入します。
あとはいつも通りの方法で確定申告を行えば手続きは完了です。
個人事業主なら手間をかけずにふるさと納税できる
ふるさと納税を利用すると、その自治体から魅力的な返礼品を受け取れる他、自己負担分を差し引いた寄附金額を控除してもらえます。
寄附金控除を受けるには確定申告が必要になりますが、個人事業主はもともと確定申告を行わなければならないため、新たな手間をかけずにふるさと納税を利用できるのが利点です。 ただ、控除には上限額があるので、控除の範囲内でふるさと納税を利用したい場合はあらかじめ上限額をチェックしておきましょう。