インボイス対応レジの補助金はある?メリットや注意点を紹介

インボイス制度

インボイス制度への対応に当たって、会計ソフトや経理システムなどのITツール導入を検討する方もいるのではないでしょうか。特に小売業や飲食店業では、店舗の業務効率化のため、インボイス対応のレジシステム(POSレジ)を導入するケースがよく見られます。

インボイス対応レジの導入には、実は国や自治体の補助金制度を利用することが可能です。例えば、IT導入補助金や小規模事業者持続化補助金などの制度には、インボイス制度への対応を目指す事業者に特化した支援内容も用意されています。

インボイス対応のコストを少しでも減らすため、補助金制度を有効活用しましょう。本記事では、インボイス対応レジを導入するときに利用できる3つの補助金や、補助金を利用するときの注意点・メリットを詳しく解説します。

インボイス対応レジを導入するときに利用できる補助金

2023年10月に始まったインボイス制度は、標準税率(10%)と軽減税率(8%)の複数税率に対応するため、請求書の記載事項を改める制度です。インボイス制度は、レジで発行する領収書やレシートにも影響があります。

小売業や飲食店業など、不特定多数の消費者を相手にする事業者が発行するレシートは、インボイス制度では適格簡易請求書(簡易インボイス)と呼ばれます。適格簡易請求書には、以下の5つの項目を記載しなければなりません。[注1]

  1. 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  4. 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)
  5. 税率ごとに区分した消費税額等または適用税率

そのため、インボイス制度の導入後は、適格簡易請求書を発行できるインボイス対応レジへの切り替えが必要です。インボイス対応レジを新たに導入する方は、以下の3つの補助金制度を活用しましょう。

  • IT導入補助金
  • 小規模事業者持続化補助金
  • ものづくり補助金

政府はインボイス制度への対応や、免税事業者からインボイス登録事業者への転換を支援するため、さまざまな補助金を交付しています。特に中小事業者の方は、豊富な補助金制度を有効活用して、インボイス制度の対応コストを節約しましょう。

[注1]国税庁「適格請求書等保存方式の概要」P6(2023-12-26)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf

IT導入補助金

IT導入補助金は、会計ソフト、経理システム、受発注システム、決済サービスなど、ITツールを導入するときに利用できる補助金です。IT導入補助金の類型(区分)によっては、パソコンやタブレット、POSレジ、券売機など、ハードウェアの導入にも適用されます。

主に中小企業や小規模事業者を対象としていますが、新設された商流一括インボイス対応類型のように、大企業が利用できる類型もあります。インボイス対応レジを導入する方が、まず申請したいのがIT導入補助金です。

IT導入補助金の類型のうち、インボイス制度と関わりがあるのは以下の2つです。[注2]

類型名商流一括インボイス対応類型(新設)デジタル化基盤導入類型
申請者大企業等中小企業・小規模事業者等
補助率1/2以内2/3以内3/4以内2/3以内1/2以内
補助額~350万円~50万円(下限を撤廃)50万円超~350万円~10万円~20万円
ツール受発注ソフト会計・受発注・決済・ECソフトPC等レジ等
対象経費クラウド利用費(最大2年分)ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、ハードウェア購入費、導入関連費(ソフトウェア更新等保守サポート費含む)

例えば、インボイス対応レジを新しく導入する場合、IT導入補助金のデジタル化基盤導入類型が対象となります。デジタル化基盤導入類型を利用すれば、20万円を上限として、インボイス対応レジの購入費用の2分の1までの補助金を受けることが可能です。

その他にも、会計ソフトや経理システムなどのソフトウェア購入費や、クラウドサービスの利用料(最大2年分)など、ITツールの導入に役立つ補助が受けられます。ただし、商流一括インボイス対応類型を除いて、IT導入補助金の受給対象は中小企業か小規模事業者に限られます。

[注2]経済産業省「インボイス制度への対応に取り組む皆様へ」(参照2023-12-27)
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/r4/r4_invoice.pdf

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)とは、働き方改革やインボイス制度などの制度変更に直面する小規模事業者を対象として、制度対応に必要な経費の一部を補助する制度です。小規模事業者持続化補助金という名前のとおり、補助金の受給対象は小規模事業者に限られます。業種によって小規模事業者の定義が異なるため、以下の表で確認してください。[注3]

業種人数
商業・サービス業(宿泊・娯楽業除く)常時使用する従業員の数 5人以下
サービス業のうち宿泊業・娯楽業常時使用する従業員の数 20人以下
製造業その他常時使用する従業員の数 20人以下

小規模事業者持続化補助金の類型は、通常枠、成長・分配強化枠、新陳代謝枠などの種類があります。それぞれインボイス特例があり、免税事業者からインボイス発行事業者に転換する事業者(インボイス転換事業者)は、通常の補助金に加えて50万円が上乗せされるのが特徴です。[注2]

申請類型補助上限額補助率
通常枠100万円(50万円)2/3以内
成長・分配強化枠 (賃上げや事業規模拡大の取組)250万円(200万円)
新陳代謝枠 (創業や後継ぎ候補者等の新たな取組)250万円(200万円)

※()内の補助上限額は、インボイス転換事業者以外が申請した場合

[注3]全国商工会連合会「持続化補助金とは」
https://www.shokokai.or.jp/jizokuka_r1h/jizokuka.html

ものづくり補助金

インボイス制度に関連した3つめの補助金制度は、ものづくり補助金です。ものづくり補助金は、商品開発やサービス開発を目的として、設備投資に取り組む中小企業を支援する制度です。またものづくり補助金にはデジタル枠もあり、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けて、ITツールの導入などを行う企業が利用できます。 ものづくり補助金は受給条件が厳しく、3~5年分の事業計画の提出や、革新性のある商品・サービス開発などが求められます。その代わり、ものづくり補助金は補助上限額が大きく、750万円~5,000万円の補助金交付を受けることが可能です。

インボイス対応レジの補助金を申請するときの注意点

IT導入補助金や小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金などの補助金を活用すれば、インボイス対応レジの導入コストを節約できます。しかし、こうした補助金制度には注意点も2つあります。

  • 補助金の交付決定日がいつか必ず確認する
  • 補助金は法人税や所得税の課税対象になる

補助金の交付決定日がいつか必ず確認する

補助金を申請する際は、補助金の交付決定日がいつか必ず確認してください。補助金の交付決定日よりも前に購入したものは、原則として補助の対象にはなりません。会計ソフトや経理システム、POSレジなどを導入する場合は、補助金の交付決定日が決まった後で購入する必要があります。 同様にして、購入する際の支払い方法にも注意してください。補助金制度によっては、手形や小切手、商品券、電子マネーなどでの支払いは補助対象にならない場合があります。またクレジットカード決済を行うと、クレジットカードの引き落としのタイミングによって、補助対象となる期間を過ぎてしまう可能性もあります。インボイス対応レジを購入する際は、銀行振り込みを利用するのがおすすめです。

補助金は法人税や所得税の課税対象になる

補助金は雑収入に当たるため、法人税や所得税の課税対象です(消費税は課税されません)。補助金を受け取った年度は、法人税や所得税の課税所得が増えるため、その年の税負担が大きくなります。

そのため、補助金制度を利用した事業者を対象として、圧縮記帳を行うことが認められています。圧縮記帳とは、補助金によって得た収入を固定資産(この場合はインボイス対応レジなど)の購入費用と相殺し、税負担を軽減する会計処理です。会計上は、補助金による税負担を翌年以降に繰り延べ、分割納付にする効果があります。 補助金による税負担の増加が気になる場合は、圧縮記帳の仕組みをうまく活用しましょう。

インボイス対応レジの補助金を利用するメリット

インボイス制度に関連した補助金を利用するメリットは3つあります。

  • インボイス対応が必要な事業者は有利な条件で補助金を利用できる
  • 電子インボイス(適格請求書に係る電磁的記録)の発行にも対応できる
  • 免税事業者からインボイス発行事業者に転換しやすくなる

インボイス対応が必要な事業者は有利な条件で補助金を利用できる

IT導入補助金や小規模事業者持続化補助金などの補助金は、インボイス対応を目指す事業者以外も利用できる制度です。しかし、インボイス対応を進める事業者は、より有利な条件で補助金の交付を受けられます。

例えば、小規模事業者持続化補助金には、免税事業者からインボイス発行事業者へ転換する事業者向けの特例があります。小規模事業者持続化補助金の補助上限額は、通常50〜200万円です。しかし、インボイス発行事業者に登録すると、補助金がさらに50万円上乗せされ、補助上限額が100~250万円に増加します。またIT導入補助金は、新たに商流一括インボイス対応類型が新設され、受発注ソフトなど導入費用の補助を受けられるようになりました。 政府はインボイス対応を進める事業者を対象として、さまざまな補助金を交付しています。IT導入補助金や小規模事業者持続化補助金などの補助金を賢く活用しましょう。

電子インボイス(適格請求書に係る電磁的記録)の発行にも対応できる

また電子インボイス(適格請求書に係る電磁的記録)を導入したい企業も、IT導入補助金などの補助金制度の利用をおすすめします。電子インボイスとは、書面での交付に代えて、電子データで提供するインボイスのことです。[注4]

電子インボイスを導入すると、請求書を電子メールでやりとりしたり、Webサービスで共有したりすることができます。書面での交付と違って、請求書の管理や保存がもっと楽になるのが特徴です。電子インボイスに対応した経理システムや、請求書の電子インボイス化が可能なPOSレジを導入したい方は、補助金制度を有効活用しましょう。

[注4]国税庁「適格請求書等保存方式の概要」P7(2023-12-26)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf

免税事業者からインボイス発行事業者に転換しやすくなる

インボイス制度の影響を大きく受けると言われているのが、毎年の課税売上高が1,000万円未満の免税事業者です。

免税事業者はインボイス発行事業者に登録できないため、インボイスを発行することができません。インボイス制度では、インボイスがないと消費税の仕入税額控除を利用できません。そのため、インボイスを発行できない免税事業者は、取引量の減少や取引の停止といったリスクに直面しています。

免税事業者は、納税地の税務署長に消費税課税事業者選択届出書を提出することで、その年の課税売上高にかかわらず、課税事業者に転換できます。課税事業者に転換すれば、インボイス発行事業者に登録し、取引相手にインボイスを発行することが可能です。

ただし、課税事業者に転換すると、課税売上高が1,000万円未満であっても消費税を納付しなければなりません。そこで役に立つのが、小規模事業者持続化補助金をはじめとした補助金制度です。 補助金によっては、インボイス発行事業者へ転換する免税事業者を対象とした特例が設けられています。例えば、小規模事業者持続化補助金では、インボイス発行事業者に転換すると補助金が50万円上乗せされます。補助金制度の特例を利用すれば、インボイス発行事業者への転換に伴うコスト増に対処することが可能です。

補助金以外に利用できるインボイスの負担軽減措置

実は補助金以外にも、インボイス対応の負担軽減につながる仕組みがあります。いわゆる2割特例や少額特例、少額な返還インボイスの交付義務免除などの制度です。

  • 小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)
  • 一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)
  • 少額な返還インボイスの交付義務免除

免税事業者からインボイス登録事業者への転換を目指す方や、インボイス制度に関する事務作業を減らしたい方は、補助金以外の負担軽減措置にも目を向けましょう。

小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)

小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置は、いわゆる2割特例と呼ばれ、インボイス制度の導入をきっかけとして免税事業者からインボイス登録事業者へ転換した事業者向けの特例です。2割特例を利用すると、2026年9月30日までの税申告が緩和され、消費税の納付税額が売上税額の20%(売上にかかった消費税額の20%)になります。 また会計処理やインボイスの保存も不要になり、簡単に消費税申告書を作成できます。適用できる期間に制限はありますが、2割特例なら税負担や事務負担を大きく軽減することが可能です。

一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)

一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置は、いわゆる少額特例と呼ばれ、中小事業者の事務負担を軽減する目的でつくられた特例です。少額特例によって、1万円未満の課税仕入れに対しては、インボイスの保存がなくても仕入税額控除を行うことができます。帳簿を保存するだけで仕入税額控除を受けられるため、インボイス対応に伴う事務負担が大きく軽減されます。

少額特例の対象者は、2年前(=基準期間)の課税売上が1億円以下か、1年前の上半期の課税売上が5,000万円以下の事業者です。少額特例が適用される期間は、2026年9月30日までとなっています。[注5]

[注5]財務省「インボイス制度の改正案に関する資料 小規模事業者に対する納税額に係る負担軽減措置(案)」(参照2023-12-26)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/invoice/materials.html#a02

少額な返還インボイスの交付義務免除

インボイス制度では、商品の返品や値引きが行われた場合、請求書の内容を修正して返還インボイスを交付する必要があります。しかし、1万円未満の値引きや返品の場合は、特例によって返還インボイスを交付しなくても問題ありません。少額な返還インボイスの交付義務免除は、適用される期間の定めがなく、恒久的に利用することができます。

インボイス対応レジの導入なら、補助金制度を有効活用しよう

2023年10月にスタートしたインボイス制度への対応には、さまざまなコストがかかります。小売業や飲食店業の場合、会計ソフトや経理システムの刷新だけでなく、インボイス対応レジの導入も必要です。

インボイス対応レジを導入する場合は、IT導入補助金や小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金などの補助金を有効活用しましょう。特にIT導入補助金や小規模事業者持続化補助金には、インボイス制度への対応を目指す事業者向けの枠や特例が用意されています。また受給要件は厳しいものの、ものづくり補助金は補助対象が幅広く、多額の補助金を受けられる可能性があります。 レジシステムやPOSレジの導入に利用できる補助金について知って、インボイス制度の対応コストを少しでも節約しましょう。

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