2023年10月からインボイス制度が始まりました。インボイス制度は、実は海外企業との取引とも関係がある制度です。
一般的に海外企業と取引をする国外取引は、消費税が課税されない不課税取引の一つとされています。しかし、海外企業との取引の仕方によっては消費税の申告納税義務が発生し、インボイス制度への対応が必要になるケースがあります。 インボイス制度への理解を深め、インボイス制度が影響する海外取引とそうでない海外取引を明確に区別することが大切です。本記事では、インボイス制度と海外取引の関係や、インボイス制度が海外取引に適用されるケースを詳しく解説します。
海外取引におけるインボイス(Invoice)とは
海外取引におけるインボイス(Invoice)とは、仕入書やカスタムズ・インボイスとも呼ばれ、「物品を送るときに税関への申告、検査などで必要となる書類」を指します。[注1]つまり、輸出者が海外に品物を送るときに作成し、税関での手続きに使用する書類のことです。また品物を受け取った側は、輸入(納税)申告書や船荷証券(海上運送状)などの書類と並んで、インボイスを輸入通関の手続きに使用します。[注2]
【輸入申告に必要な書類】
- インボイス(仕入書)
- 包装明細書
- 船荷証券または海上運送状(航空貨物の場合は航空貨物運送状)
- 運賃明細書
- 保険料明細書
インボイスには、主に品物の名前や数量、価格などを記載します。農林水産省の記入例によると、インボイスには以下のような項目を記載することが一般的です。[注3]
| インボイスの記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 輸出者情報 | 社名、会社ロゴ、住所、電話番号、FAX番号などを記載する |
| インボイス番号(Invoice No.) | 輸出者が独自の番号を記載する |
| 作成年月日(Date) | インボイスが作成された年月日を記載する |
| 品名(Invoice of) | 輸出する品物の名前を記載する 輸出する品物が多い場合は、代表的な商品名 & etcといった形式で省略し、詳細は品名(Description of goods)の項目に記載する |
| 送達手段(Shipped per) | 海上貨物の場合は船名を記載する 航空貨物の場合はAirやAir Freight、国際小包の場合はParcel Postなど |
| 出港予定日(On or about) | 出向予定日を記載する |
| 出港地(From) | 出港地を記載する |
| 仕向地(To) | 仕向地を記載する |
| 輸入者名、住所(Messers) | 輸出先の社名や住所、電話番号、FAX番号などを記載する |
| 支払条件(Payment) | 支払条件(取立為替、送金為替など)を記載する |
| ケースマーク(Mark & No.) | 品物の梱包物に書く荷印(ケースマーク)を記載する |
| 品名(Description of goods) | 輸出する商品の品番・型番を記載する |
| 数量(Quantity) | 輸出する商品の数量を記載する |
| 単価(Unit Price) | 輸出する商品の単価を通貨コードとともに記載する |
| 金額(Amount) | 税関への申告価格を記載する |
| 建値(取引条件) | インコタームズ(国際商業会議所が定めた国際規則)に基づいた3文字の短縮後と指定地を記載する |
| 無償 | 無償の場合は「No Commercial Value, Value for Customs Purpose Only」の記載が必要 |
| 原産地(Country of Origin) | 品物の原産地を記載する |
| 署名欄 | 自筆の署名をする |
海外取引におけるインボイスは、原則として相手国の言語や公用語で記載しなければなりません。相手国の言語が分からない場合は、公用語である英語でインボイスを作成しましょう。また相手国によって、インボイスが必要な場合とそうでない場合があります。
[注1]日本郵便「インボイスについて」(参照2023-12-25)
https://www.post.japanpost.jp/int/use/writing/invoice.html
[注2]税関「1107 輸入申告の際に必要な書類 (カスタムスアンサー)」(参照2023-12-25)
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1107_jr.htm
[注3]農林水産省「主要なドキュメント」P2(参照2023-12-25)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/torikumi_zirei/attach/pdf/index-1.pdf
インボイス制度における「インボイス」との違い
2023年10月から、インボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートしました。海外取引におけるインボイスは、インボイス制度におけるインボイス(適格請求書)とは少し意味合いが異なります。
インボイス制度におけるインボイスとは、「事業者間でやり取りされる消費税額等が記載された請求書や領収書等」のことです。[注4]つまり、買い手が適用税率や消費税額を正確に計算できるよう、売り手が交付する請求書を指します。
インボイス制度が導入された背景には、2019年10月から始まった軽減税率制度があります。軽減税率制度は商品の種類によって、10%と8%の2つの消費税率を適用する制度です。従来の請求書の書き方では、どの商品にどちらの税率が適用されるのかが分かりにくいという問題点がありました。
その問題点を解決するために導入されたのが、インボイス(適格請求書)と呼ばれる新しい形式の請求書です。インボイスには、以下の6つの項目を記載する必要があります。[注5]
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
インボイス制度の導入後は、消費税の仕入税額控除を利用する条件の一つにインボイスの保存が含まれます。取引相手からインボイスの交付を受けなかった場合、仕入税額控除を行うことができません。つまり、売上に対する消費税から、仕入れにかかった消費税を控除し、消費税の二重課税(二重取り)を防ぐことができなくなります。消費税の負担が大きい企業にとって、インボイス制度に対応するか否かは重要な経営課題の一つとなっています。
[注4]政府広報オンライン「令和5年10月からインボイス制度が開始!事業者間でやり取りされる「消費税」が記載された請求書等の制度です」(参照2023-12-25)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202210/1.html
[注5]国税庁「適格請求書等保存方式の概要」P6(参照2023-12-25)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf
インボイス制度は海外取引にも適用される?
インボイス制度は海外企業との取引にも適用されるのかについて解説します。
消費税の課税対象となる取引は、国内で行われる取引や、特定仕入れに該当する取引、そして保税地域からの外国貨物の引き取り(輸入取引)の3つです。そのうちインボイス制度の対象となるのは、消費税法における国内取引のみです。 しかし、海外企業との取引であっても、消費税法における国内取引に該当するケースがあります。消費税法における国内取引の定義や、インボイス制度が海外取引に適用されるケースについて把握しておきましょう。
消費税法における国内取引とは?
インボイス(適格請求書)を交付する義務があるのは、適格請求書発行事業者として登録を行った消費税の課税事業者です。消費税法第57条の4第1項によると、適格請求書発行事業者は国内において課税資産の譲渡を行った場合、取引相手の求めに応じて、必要な事項を満たしたインボイスを交付しなければならないと定められています。[注6]
つまり、インボイス制度は国内で行われた取引にのみ適用され、条文上は海外取引には適用されません。国税庁のホームページによると、国内取引かどうかの判定(内外判定)は以下の2点に基づいて行います。[注7]
| 取引の種類 | 内外判定の基準 |
|---|---|
| 資産を譲渡または貸付けをする取引 | 譲渡または貸付けを行う資産が国内にあるかどうか |
| 役務(サービス)を提供する取引 | サービスの提供が国内で行われるかどうか |
原則として、商品やサービスの所在が国内にある場合にかぎり、消費税法における国内取引として扱われます。国内取引を行う場合、適格請求書発行事業者は取引相手の求めに応じ、インボイスを交付する必要があります。
一方、海外に拠点を置く企業と取引する場合は、一部の例外をのぞいて国外取引とみなされ、消費税の課税対象になりません。またインボイス制度の対象でもないため、インボイスを発行したり、インボイスの交付を受けたりする必要もありません。
[注6]e-Gov法令検索「消費税法」(参照2023-12-25)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=363AC0000000108
[注7]国税庁「No.6210 国外取引」(参照2023-12-25)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6210.htm
海外企業の拠点(PE)が国内にある場合は国内取引に該当する
ただし、海外企業との取引でも、商品やサービスの所在が国内にある場合は、消費税法における国内取引とみなされます。判断基準は、取引の実態のある事業拠点(PE)が国内にあるかどうかです。
以下は国税庁のホームページで紹介されている海外取引の事例です。[注8]
A社はハワイで土産品販売店(現地法人)を営んでおり、B社(内国法人)と配達業務委託契約を結んでいる。A社はハワイで日本人観光客に土産品を販売し、日本国内の指定場所への配送サービスも提供している。ただし、A社はあらかじめ同一の商品をB社の倉庫(国内)に保管しており、商品の預かり証と引き換えにして、B社の倉庫から購入者の指定場所へ配送する方式を採用している。
上記の例の場合、商品の売買契約はハワイ(国外)で締結され、代金の支払いも行われています。しかし、商品の引渡しはハワイでは行われていません。A社は購入した商品と同一の商品をあらかじめ国内の倉庫に保管しており、国内で商品の引渡しを行っているためです。
国税庁の注釈によると、「ハワイにおける売買契約は見本品の提示による購入の申込みを受けたに過ぎないと解すべき」であり、商品やサービスの譲渡は国内で行われていると考えられます。したがって、上記の例は見かけ上は海外取引ですが、消費税法における国内取引に該当し、売り手のA社はインボイスを交付する必要があります。
このように海外取引であっても例外はあるため、インボイス制度が適用されるかどうかを個別具体的に判断することが大切です。
[注8]国税庁「国内資産の国外販売及び輸入に係る課税関係」(参照2023-12-25)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/04/05.htm
輸入取引によっては輸入許可通知書で仕入税額控除を受けられる
インボイス制度の導入後、消費税の仕入税額控除を利用するためには、取引相手からインボイスの交付を受ける必要があります。しかし、海外取引の種類によっては、例外的にインボイスがなくても仕入税額控除を受けられる場合があります。
消費税の課税取引は、先述したように国内取引、特定仕入れ、保税地域からの外国貨物の引き取り(輸入取引)の3つです。
保税地域とは、輸出入した商品を一時的に留め置き、保管したり加工・製造を行ったりする場所を指します。保税地域に保管された商品は外国貨物として扱われ、保管中は消費税が課税されません(=保税)。
海外から商品を輸入する場合、取引相手の拠点が海外にある場合は国外取引に該当するため、消費税が課税されません。ただし、輸入した商品を保税地域に留め置き、その後に引き取る場合は消費税の課税対象となります。
こうしたケースの場合、海外の取引相手からインボイス(適格請求書)が発行されるとはかぎりません。代わりに取引相手から交付された輸入許可通知書を用いて仕入税額控除を行うことができます。 インボイス制度の影響は国内取引だけでなく、海外取引(国外取引)にも及んでいます。インボイス制度の仕組みや、国内取引かどうかを判定する内外判定について詳しく知っておきましょう。
インボイス制度の影響を受ける海外取引
インボイス制度は、すでに2023年10月から始まっています。インボイス制度の効力は、一部の海外取引にも及んでいるため、インボイス制度の影響を受ける海外取引とそうでない海外取引を区別しましょう。
ここでは、インボイスの交付義務がある海外取引や、インボイスを保存しなければ消費税の仕入税額控除が受けられない海外取引を2つ紹介します。
- 海外企業との取引のうち国内取引に該当するもの
- 電気通信回線(インターネット)を用いて役務(サービス)を提供するもの
海外企業との取引のうち国内取引に該当するもの
先述したように海外企業との取引であっても、消費税法における国内取引に該当する場合があります。例えば、国内で商品の引渡しが行われる取引や、サービスの提供が国内で完結している取引です。消費税法では、法人格が海外にあるかどうかにかかわらず、商品やサービスの所在が国内にあるかどうかで内外判定を行います。 消費税法における国内取引に該当する場合、海外企業からインボイスの提供を受けなければ、消費税の仕入税額控除を行うことができません。また海外企業も、日本国内の事業者に対してインボイスを交付する義務を負います。
電気通信回線(インターネット)を用いて役務(サービス)を提供するもの
電子書籍や音楽、広告の配信など、インターネットを用いて提供されるサービス(=電気通信利用役務)の場合、サービスの利用者の所在によって国内取引かどうかが判定されます。電気通信利用役務が国内から提供されるか、国外から提供されるかは関係がありません。 国内に居住する消費者や事業者を対象として電気通信利用役務が提供される場合、国内取引の扱いになって消費税が課税されます。インボイス制度の導入後は、インボイスの発行を受けなければ仕入税額控除を利用できません。
インボイス制度の影響を受けない海外取引
一方、インボイス制度の影響を受けない海外取引は以下の3つです。
- 国外取引に該当するもの
- 三国間貿易に該当するもの
- 国内外にわたって提供される役務(サービス)のうち国外に対応する部分
国外取引はそもそも消費税の課税対象ではないため、インボイスを交付する義務もありません。ただし、取引の仕方によっては、海外に法人格がある企業との取引でも、国外取引ではなく国内取引に該当するケースがあります。国税庁の示す基準を参考にしながら、個別具体的に内外判定を行ってください。
また三国間貿易も消費税の課税対象ではありません。三国間貿易とは、「事業者が国外において購入した資産を国内に搬入することなく他へ譲渡する」取引形態を指します。[注7]三国間貿易では、第三国が中心となって、商品が国外から国外へ譲渡されます。三国間貿易は取引が国外で完結しているため、経理処理の仕方にかかわらず、消費税の課税対象にはなりません。
また国内外にまたがって提供されるサービスについては、国外に対応する部分のみ国外取引とみなされ、消費税の非課税取引として扱われます。例えば、国内の企業から市場調査を請け負い、国外で市場調査の業務を行って、その後国内で市場調査のレポートを作成するようなケースです。 この場合、国内に対応する業務と国外に対応する業務を区分し、国内対応部分の対価は課税取引、国外対応部分の対価は非課税取引として取り扱います。ただし、事前の取り決めで両者が明確に区分されていない場合は、サービスを提供する事務所の所在地によって内外判定を行うことになります。
インボイス制度は海外取引でも重要!当てはまるケースを知ろう
インボイス制度は、原則として国内で行われる取引にしか適用されません。しかし、海外企業との取引形態によっては、消費税法における国内取引としてみなされ、インボイスの交付義務が発生する可能性があります。
例えば、法人格が外国にある企業でも、商品やサービスの引渡しが国内で行われる場合(=事業拠点が国内にある場合)、日本国内で消費税を納付しなければなりません。商品やサービスの買い手に対して、インボイスの交付義務を負うことになります。また電子書籍や音楽、広告の配信など、海外企業からインターネットを通じてサービスの提供を受ける場合も、仕入税額控除を利用するにはインボイスの交付を受ける必要があります。 インボイス制度と海外取引の関係は非常に複雑です。インボイス制度の仕組みや、国内取引に当てはまるかどうかの内外判定の仕組みについて正しい知識を持っておくことが大切です。


