インボイスと請求書の違いについてわかりやすく解説

インボイス制度

2023年10月1日から、適格請求書等保存方式(インボイス制度)が始まりました。[注1]2019年10月1日に経過措置として導入された区分記載請求書に代わって、今後は適格請求書(=インボイス)の発行が必要です。[注1]

インボイスと従来の請求書には、どのような違いがあるのでしょうか。本記事では、インボイスとこれまでの請求書との比較や、インボイスを発行する人、受け取る人が対応しなければならないことを詳しく解説します。

[注1]国税庁:適格請求書等保存方式の概要 P4,P5
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf(参照2023-12-13)

インボイスと請求書の違い

インボイス制度は、2019年10月に導入された軽減税率制度に対応し、請求書の書き方や交付の仕方を変更する制度です。[注2]適用税率や消費税額を正確に伝えるため、請求書に新しい記載項目が追加されます。

インボイス制度に対応した新しい請求書の方式が、適格請求書等保存方式です。2023年10月1日以降は、適格請求書(=インボイス)の交付を受けなければ、消費税の仕入税額控除を行うことができません。[注1]

インボイス制度に関係のある請求書は、インボイスだけではありません。例えば、インボイス制度が導入される前の請求書の方式は、請求書等保存方式と呼ばれています。またインボイス制度の導入に伴う中小企業の負担を考慮し、経過措置として導入された方式を区分記載請求書等保存方式といいます。

新しく対応が必要なインボイスと、従来の請求書にはどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、インボイスとこれまでの請求書との違いを詳しく解説します。

[注2]国税庁:軽減税率制度の概要
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/01.htm(参照2023-12-13)

従来の請求書との違い

軽減税率制度が導入される以前の請求書の方式は、請求書等保存方式と呼ばれます。請求書の役割は、売り手が買い手に対して、取引の内容や金額を正確に伝えることです。請求書を受け取った人が課税事業者の場合は、請求書に基づいて消費税額を計算し、仕入れ税額控除などの会計処理を行います。

請求書に決まった書式はありませんが、従来の請求書には以下の項目を記載することが一般的でした。

請求書の記載項目内容
①書類作成者の氏名または名称商品やサービスを販売し、請求書を交付する人の氏名や法人名
②取引年月日取引が完了し、商品やサービスの引き渡しが行われた年月日(請求書の発行日ではない)
③取引内容商品やサービスの品目
④取引金額商品やサービスの対価として、受け取った金額
⑤書類の交付を受ける事業者の氏名または名称商品やサービスを購入し、請求書の交付を受ける人の氏名や法人名

しかし、軽減税率制度の導入によって、商品やサービスごとに適用税率が変わるケースが出てきました。軽減税率制度では、商品やサービスの品目によって8%の税率と10%の税率のいずれかが適用されます。[注1]これまでの方式を踏襲し、取引内容をそのまま請求書に記載すると、どの品目にどの税率が適用されるのかが分かりづらく不便です。

そこで導入されたのが、適格請求書(インボイス)と呼ばれる請求書の方式です。国税庁によると、インボイスとは以下の請求書を指します。

”適格請求書(インボイス)とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。具体的には、現行の区分記載請求書に登録番号、適用税率および消費税額等の記載が追加された書類やデータをいいます。”

インボイスには、以下の6つの項目を記載する必要があります。[注3]

インボイスの記載項目内容
①書類作成者の氏名または名称および登録番号請求書を交付する人の氏名や法人名に加えて、インボイス制度に登録している場合は登録番号を記載する
②取引年月日従来と同様
③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)商品やサービスの中で、軽減税率の対象品目があればその旨を明記する   例)※は軽減税率の対象
④税率ごとに区分して合計した税込対価(または税抜対価)の額および適用税率税率ごとに税込み価格と税抜き価格の2点を区分して合計し、それぞれの適用税率も明記する   例)8%対象:20,000円 10%対象:30,000円
⑤税率ごとに区分した消費税額等税率ごとに消費税額を区分して合計し、それぞれ表示する   例)消費税額(8%):1,600円 消費税額(10%):3,000円
⑥書類の交付を受ける事業者の氏名または名称従来と同様

しかし、請求書の記載項目を大きく変更すると、従業員数が少ない中小企業を中心として業務量の増加が懸念されます。そのため、政府は2019年10月1日から2023年9月30日までの経過措置として、区分記載請求書等保存方式を導入しました。[注1]

[注3]国税庁:No.6625 適格請求書等の記載事項
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6625.htm(参照2023-12-13)

区分記載請求書との違い

区分記載請求書等保存方式とは、取引内容を税率ごとに区分して記載する区分経理を行うための制度です。区分記載請求書は、インボイスよりも記載項目が少なく、発行する人の負担が全体として少なくなっています。

区分記載請求書の記載項目は5つあります。[注1]

区分記載請求書の記載項目内容
①書類作成者の氏名または名称従来の請求書と同様で、インボイスと違って登録番号の記載が免除される
②取引年月日従来と同様
③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)インボイスと同様に、商品やサービスのうち軽減税率の対象品目を明記する
④税率ごとに区分して合計した税込対価の額インボイスと違って、税率ごとに税込み価格のみを合計して表示する
⑤書類の交付を受ける事業者の氏名または名称従来と同様

区分記載請求書とインボイスとの違いは、登録番号の記載が不要な点です。また税率ごとに税抜き価格を区分して合計し、適用税率を明記する必要もありません。

消費税額も税率ごとに区分して表示する必要がないため、インボイスよりも簡易的な内容になっています。区分記載請求書等保存方式は2023年9月30日に終了し、現在は適格請求書等保存方式が始まっているため、インボイスに対応した形式の請求書に変更しましょう。[注1]

インボイス制度でレシートの扱いはどうなる?

インボイス制度は、請求書だけでなくレシートにも影響があります。インボイス制度が導入された2023年10月以降、レシートの扱いはどうなるのでしょうか。

普段から簡易的なレシートを発行している業種では、インボイス制度に対応するのが大変です。特に不特定多数の一般消費者を対象として、商品やサービスを販売する事業者の場合、「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」の確認ができません。

そこで、以下の7つの業種の場合、インボイスに替えて適格簡易請求書(簡易インボイス)を発行することが認められています。[注4]

  1. 小売業
  2. 飲食店業
  3. 写真業
  4. 旅行業
  5. タクシー業
  6. 駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限ります。)
  7. その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業

簡易インボイスの記載項目は以下のとおりです。

簡易インボイスの記載項目内容
①書類作成者の氏名または名称および登録番号インボイスと同様
②取引年月日インボイスと同様
③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)インボイスと同様
④税率ごとに区分して合計した税込対価(または税抜対価)の額インボイスと同様に、税込み価格と税抜き価格の2点を区分して合計するが、それぞれの適用税率は記載する必要がない
⑤税率ごとに区分した消費税額等または適用税率税率ごとに消費税額を区分して合計するか、適用税率を記載するかのいずれかを選べる(両方記載してもよい)

インボイスと比較すると、「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」を記載する必要がありません。また税率ごとに消費税額を区分して合計するか、適用税率を記載するかのいずれかを選ぶことができます。

小売店や飲食店、タクシー事業者などの場合は、インボイスよりも内容が省略された簡易インボイスを発行することが可能です。

[注4]国税庁:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A P47
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf(参照2023-12-13)

インボイスを発行するときの注意点

インボイス制度に対応するため、課税事業者はさまざまな準備が必要です。まずはインボイスを発行する人(商品やサービスの売り手)が知っておくべきことや注意点を4つ紹介します。

  • インボイス発行事業者に登録する
  • 返還インボイスを交付する
  • 修正インボイスを交付する
  • インボイスの写しを保存する

インボイス発行事業者に登録する

インボイスを発行できるのは、インボイス登録センターで手続きを行い、インボイス発行事業者に登録した事業者のみです。

インボイスを交付できるのは、インボイス発行事業者に限られます。
インボイス発行事業者となるためには、登録申請手続を行い、登録を受ける必要があります。[注5]

まずは国税庁のホームページから、適格請求書発行事業者の登録申請書をダウンロードし、お近くのインボイス登録センターに送付してください。国税電子申告・納税システム(e-Tax)を利用している人は、e-Taxを通じた登録申請も可能です。

その後、インボイスに対応した請求書発行システムを導入し、請求書の形式を刷新しましょう。すでに請求書発行システムを導入している場合は、インボイス対応のアップデートがあるかどうかを確認してください。

また得意先など、継続的に取引を行っている顧客がいる場合は、インボイス制度に対応した旨や、自社のインボイス番号を伝えておくとスムーズです。

[注5]国税庁:消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が開始されます P1
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf(参照2023-12-13)

返還インボイスを用意する

インボイス発行事業者が交付する必要があるのは、通常の請求書(インボイス)だけではありません。

もし商品やサービスの返品、値引き、割戻し(購入代金の一部を返金すること)があった場合、適格返還請求書(返還インボイス)を交付しなければいけません。

適格請求書発行事業者には、課税事業者に返品や値引き等の売上げに係る対価の返還等を行う場合、適格返還請求書の交付義務が課されています(消法57の4③)。[注6]

返還インボイスには、新しい取引内容に基づいて、税率ごとの取引価格や消費税額を再度記載する必要があります。ただし、以下の取引に該当する場合、返還インボイスの交付義務はありません。[注6]

  1. 3万円未満の公共交通機関(船舶、バスまたは鉄道)による旅客の運送
  2. 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売
  3. 生産者が農業協同組合、漁業協同組合または森林組合等に委託して行う農林水産物の販売
  4. 3万円未満の自動販売機および自動サービス機により行われる商品の販売等
  5. 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス

また返品や値引きに伴う返金額(税込み)が1万円未満の場合も、返還インボイスの交付義務が免除されます。

[注6]国税庁:Ⅲ 適格請求書発行事業者の義務等 P4
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-06.pdf(参照2023-12-13)

修正インボイスを交付する

取引金額に変更はないものの、インボイスの記載内容に誤りがあった場合は、請求書を修正して交付しなければなりません。

売手である適格請求書発行事業者は、交付した適格請求書、適格簡易請求書または適格返還請求書(電磁的記録により提供を行った場合も含みます。)の記載事項に誤りがあったときは、買手である課税事業者に対して、修正した適格請求書、適格簡易請求書または適格返還請求書を交付しなければなりません(消法57の4④⑤)。[注7]

この請求書を修正インボイスと呼びます。ただし、請求書を受け取った人が誤りに気がつき、内容を修正した仕入明細書などを作成して確認を求めてきた場合は、改めて修正インボイスを交付する必要はありません。

[注7]国税庁:Ⅲ 適格請求書発行事業者の義務等 P10
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-06.pdf(参照2023-12-13)

インボイスの写しを保存する

インボイスを交付した事業者は、請求書の写しを7年間保存する必要があります。[注3]なお、請求書の内容に誤りがあり、修正インボイスを交付した場合は、修正前のインボイスと修正後のインボイスの写しを両方とも保存しましょう。

インボイスを受け取るときの注意点

インボイス制度では、請求書を発行する人だけでなく受け取る人(商品やサービスの買い手)も対応が求められます。むしろ、インボイス番号の確認や請求書が形式を満たしているかの確認、電子帳簿保存法に基づく請求書の保存など、請求書を受け取る側の方が大変です。

インボイスを受け取るときにしなければならないことや注意点を3つ紹介します。

  • インボイス発行事業者かどうかを確認する
  • インボイスの形式を満たしているかを確認する
  • 電子帳簿保存法に基づいてインボイスを保存する

インボイス発行事業者かどうかを確認する

消費税の仕入税額控除を受けるには、仕入れ先がインボイス発行事業者である必要があります。まずは受け取った請求書のインボイス番号を確認し、インボイス発行事業者かどうかを確認してください。

インボイス発行事業者かどうかは、国税庁のインボイス制度適格請求書発行事業者公表サイトにアクセスし、Tから始まる登録番号を検索することで判断できます。

ただし、免税事業者からの仕入れでも、2029年までの経過措置(6年間)を利用すれば、仕入税額相当額の一部を控除することが可能です。[注8]

期間割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで仕入税額相当額の50%

[注8]国税庁:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A P165
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf(参照2023-12-11)

インボイスの形式を満たしているかを確認する

次に請求書がインボイスの形式を満たしているかを確認しましょう。送られてきた請求書によっては、インボイスに必要な記載項目を満たしていない場合があります。

また税率ごとの取引金額や消費税額を確認し、計算が正しいかチェックすることも大切です。請求書の内容に間違いがある場合は、取引先に修正インボイスの交付を求めましょう。

電子帳簿保存法に基づいてインボイスを保存する

インボイスを受け取る人は、電子帳簿保存法のルールに基づいて請求書を保存する必要があります。電子帳簿保存法に基づく請求書の保存は、仕入税額控除を利用するための要件の一つでもあります。

電子帳簿保存法は2022年に改正され、電子データで送られてきた請求書は、電子データのまま保存することが義務化されました。[注9]例えば、電子データの請求書をプリントアウトし、書面の状態で保存しても、仕入税額控除の要件は満たせません。請求書を管理するシステムを導入する場合は、インボイス制度だけでなく、電子帳簿保存法に対応しているかどうかを確認しましょう。

[注9]国税庁:電子帳簿保存法が改正されました P1
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf(参照2023-12-13)

インボイスと請求書の違いを知って対応を進めよう

インボイス制度の導入によって、請求書を発行する人、受け取る人の両方が対応を迫られています。請求書を発行した人がインボイス発行事業者でない場合や、請求書がインボイスの形式を満たしていない場合、消費税の仕入税額控除を受けることができません。

まずは現行のインボイスと従来の請求書の違いを知って、請求書がきちんとインボイス制度に対応しているか、正しい記載事項が書かれているかを確認しましょう。

インボイス制度への対応に伴って、請求書の管理が大変になります。特にインボイスを受け取る側の人は、インボイス番号の確認や請求書の型式確認、電子帳簿保存法に基づく請求書の保存などが求められ、業務量の増加が懸念されています。インボイス制度の負担を軽減するため、請求書の電子化を検討しましょう。

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