インボイス制度に対応した請求書の作成方法を個人事業主向けに解説

インボイス制度

2023年10月1日よりインボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されました。
インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)に登録した課税事業者は、取引相手の求めに応じて適格請求書(インボイス)を発行する義務があります。
適格請求書は従来の請求書と作成方法が異なりますので、作成方法をしっかり確認しておきましょう。

本記事では、インボイス制度に対応した請求書の作成方法や、作成時の注意点、請求書の保存期間について解説します。

インボイス制度に対応した請求書の作成方法

インボイス対応の請求書は、適格請求書と適格簡易請求書の2種類です。
ここではそれぞれの請求書の作成方法を説明します。

適格請求書の作成方法

インボイス対応の適格請求書には決まったフォーマットはありません。
しかし、最低限記載しなければならない項目があるため、必須となる記載事項をあらかじめチェックしておきましょう。
適格請求書に記載すべき項目は以下のとおりです。[注1]

  • 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
  • 取引を行った年月日
  • 取引の内容
  • 税率ごとに区分して合計した税抜きまたは税込みの対価の額・適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等
  • 請求書の交付を受ける事業者の氏名または名称

ちなみに、インボイス制度開始前まで採用されていた区分記載請求書の記載事項は以下のとおりです。

  • 請求書発行者の氏名または名称
  • 取引を行った年月日
  • 取引の内容
  • 税率ごとに区分して合計した税込みの対価の額
  • 請求書の交付を受ける事業者の氏名または名称

両者を比較すると、インボイス制度対応の請求書では新たに、適格請求書発行事業者の登録番号、適用税率、税率ごとに区分した消費税額等の3項目が追加されていることが分かります。
以下は、それぞれの項目についての解説です。

[注1]e-Gov法令検索:消費税法「第五十七条の四」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=363AC0000000108(参照2023/10/31)

適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号

インボイス対応の適格請求書を発行する事業者の氏名または名称と合わせて、登録番号を記載します。
登録番号とは、発行事業者の登録を行った際に交付される固有番号のことです。登録番号は、既に法人番号を持つ事業者とそうでない事業者とで発行の仕方が異なります。

前者の場合、法人番号の頭にTを付けたものが登録番号です。
一方、個人事業主や社団法人など法人番号がない事業者は、新たに発行されたT+13桁の固有番号が登録番号になります。

登録番号の記載がないと正式ないインボイスと認められず、請求書を受領した事業者が仕入税額控除を受けられなくなります。
取引先に多大な迷惑をかける可能性があるので、登録手続きおよび登録番号の記載を忘れないようにしましょう。

取引を行った年月日

取引を行った年月日を記載します。
複数の取引をまとめた適格請求書を作成する場合は、取引ごとに日付を記載しなければなりません。
適格請求書を発行した日付とは異なるので、混同しないよう注意しましょう。

取引の内容

取引した品目を記載します。
軽減税率の対象品目である場合は、品目の横に「※」や「*」などのマークを付け、欄外に「※(*)軽減税率対象」と記載しましょう。
最低限、品名が記載されていればOKですが、単価や数量も合わせて記載した方がより詳細な取引内容となります。[注2]

なお、数量に関しては「一式」と記載することも可能です。
例えば、新築の内装工事を行った場合、工事に必要な材料や人工などを一つ一つ請求書に記載すると、項目の数が多岐にわたってしまいます。
一つの作業や工程に関する取引であれば、一式表記でまとめた方が簡易的です。

ただし、取引先から要望があった場合は、一式表記ではなく取引内容の詳細を一つ一つ記載した方がよいでしょう。

[注2]国税庁:適格請求書の記載事項
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-09.pdf(参照2023/10/31)

税率ごとに区分して合計した税抜きまたは税込みの対価の額・適用税率

2023年10月時点において、日本国内の消費税率の区分は、10%と8%の2種類です。
その中で、酒類・外食を除く飲食料品と、定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞には8%の軽減税率が適用されます。そのため、これらの品目が取引に含まれる場合は、10%対象の品目と区分して合計額を記載しなければなりません。

例えば、1枚の適格請求書において、豚肉5,000円、飲料水3,000円、タオル4,000円をそれぞれ記載する場合、豚肉と飲料水は軽減税率の対象となるため、5,000円+3,000円=8,000円を8%対象として記載します。
一方、タオルは軽減税率の対象外なので、4,000円を10%対象として記載します。

対価の額は税抜き表記でも税込み表記でもかまいませんが、前者の場合は後述する消費税額で「消費税」、後者の場合は「内消費税」と記載しましょう。

税率ごとに区分した消費税額等

8%対象または10%対象の対価額に対する消費税額をそれぞれ記載します。
上記の例では、8%対象が8,000円、10%対象が4,000円なので、8,000円×8%=640円を8%対象の消費税額に、4,000円×10%=400円を10%対象の消費税額としてそれぞれ記入します。
なお、インボイス制度では、1枚の適格請求書ごとに消費税の端数処理を行わなければなりません。

1円未満の端数が出た場合の処理方法は、事業者の判断に委ねられており、端数切り捨てや切り上げ、四捨五入などの方法が用いられます。
一般的には切り捨てを採用している企業が多いですが、初めて適格請求書を作成する際は、自社の端数処理の方法を今一度確認しておきましょう。
適格請求書で消費税の端数処理を行う場合は、税率ごとに区分して合計した額に8%または10%を乗じて消費税額を求め、端数処理を行います。
品目ごとの消費税に端数処理を行った上で合算することは認められていないので注意しましょう。

請求書の交付を受ける事業者の氏名または名称

適格請求書を受領する事業者の氏名または名称を記載します。

以上が適格請求書の必須記載項目ですが、上記の項目以外にも任意で記載しておいた方がよい項目があるため、そちらも紹介します。
以下は、適格請求書に記載した方がよい項目の例4つです。

  • 請求書のタイトル
  • 請求書番号
  • 支払期限
  • 振込先の口座情報

それぞれの項目について解説します。

請求書のタイトル

適格請求書の上部に、「請求書」など任意のタイトルを記載します。
取引先とやり取りする書類は請求書だけではないため、他の書類と混同しないためにも、大きめのフォントでタイトルを記載しておいた方がよいでしょう。

請求書番号

請求書番号とは、適格請求書発行事業者が任意で割り振る番号のことです。
請求書番号と、請求書の送付先、請求内容などのデータを紐付けておけば、後日、請求書に関して問い合わせを受けたとき、請求書番号を伝えてもらうだけで内容を照会することが可能になります。

請求書の管理も楽になるので、社内ルールに基づいて発行された請求書番号を記載しておくとよいでしょう。

支払期限

請求書に記載した金額の支払期限を明記します。
支払期限は契約の際に取り決めるものですが、請求書ごとに明記しておけば遅延や未払いといった支払いトラブルの防止に役立ちます。
支払期限は年月日できちんと記載するようにしましょう。

振込先の口座情報

請求金額の振込先口座の情報を記載します。
振込先の銀行名や支店名、口座番号、口座名義などを明記しておくと、取引先が入金しやすくなります。

適格簡易請求書の作成方法

適格簡易請求書とは、不特定かつ多数の者と取引する事業が作成できる簡易的な適格請求書のことです。
適格簡易請求書を作成できる主な事業には以下のようなものがあります。

  • 小売業
  • 飲食店業
  • 写真業
  • 旅行業
  • タクシー業
  • 駐車場業

適格請求書では、請求書を受け取る者の名前を記載することが義務づけられています。しかし、スーパーなどの小売店やレストランなどの飲食店において、お客さんにいちいち名前を聞いて請求書を作成するのは現実的ではありません。
そこで、上記に代表される事業では、請求書の交付を受ける者の氏名や名称を省略できる適格簡易請求書の作成が認められています。

その他の項目については、普通の適格請求書と共通しているので、受領者側の氏名や名称を省略できる請求書と認識しておけばよいでしょう。
上記以外でも、これらの事業に準ずる事業で、不特定多数の人と取引を行う事業であれば適格簡易請求書の作成・発行が可能です。

適用事業であるか否かは個々の事業の性質によって判断されますが、基本的には取引条件などをあらかじめ提示した上で、幅広い取引を行うことを常としている事業はこれに該当するとみなされます。

逆に、上記の事業でも不特定多数の人に対するものでないと判断される場合は、適格簡易請求書ではなく適格請求書を作成・発行しなければなりません。
例えば、駐車場業について、不特定多数の人が利用するコインパーキングのような形態なら適格簡易請求書を作成・発行できます。しかし、月極駐車場のように特定の人と契約している場合は、適格請求書を作成・発行することになります。

インボイス制度に対応した請求書を作成するときの注意点

インボイス制度に対応した請求書を作成する際に気を付けたいポイントは、以下の2つです。

  • 取引先コードを利用する場合の注意点
  • 電子インボイスの作成には専用システムの導入が必要

それぞれのポイントについて解説します。

取引先コードを利用する場合の注意点

取引先コードとは、取引先と共有する個別のコードのことです。
その企業の名称や所在地、連絡先など、さまざまな情報に紐付けられており、コードを調べれば企業の情報を確認できる仕組みになっています。

複数の企業と取引している事業者の中には、取引先との間でコードを共有し、請求書に記載しているところも少なくありません。
インボイス制度に対応した請求書を作成する際に、これまでどおりの取引先コードを使いたいという場合は、自社の取引先コードの内容に新たに適格請求書発行事業者の登録番号を追加する必要があります。

登録番号を追加していない状態で適格請求書に取引先コードを記載した場合、適格請求書の条件を満たせず、取引先が仕入額控除を利用できなくなるので要注意です。

電子インボイスの作成には専用システムの導入が必要

適格請求書は紙の書類としてだけでなく、電子データとして作成・提供することも可能です。
電子インボイスでも記載する項目は同じですが、請求書は電子帳簿保存法の適用対象となる書類なので、同法に基づいて電子データを作成・保存する必要があります。

電子帳簿保存法は、電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引の3つに区分されており、それぞれに保存要件が定められています。

例えば、電子帳簿等保存の場合、訂正・削除履歴を確認できるシステムを利用すること、各種条件で検索が可能であることなどが保存要件です。

一方、スキャナ保存の場合はタイムスタンプの付与や帳簿との相互関連性の確保などの要件を満たしていなければ、正式な書類として認めてもらえません。

これらの保存要件を全て満たしながら電子インボイスを作成するのは難しいため、電子帳簿保存法に対応したシステムを利用するのがおすすめです。

電子帳簿保存法に対応したシステムは複数ありますが、制度が開始されたばかりの電子インボイスに対応しているシステムはまだ少ないため、システムを導入する際は仕様をよく確認することが大切です。[注3]

[注3]国税庁:電子帳簿等保存制度特設サイト
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm(参照2023/10/31)

インボイス制度に対応した請求書の保存期間

インボイス制度に対応した請求書の写しは、法人・個人にかかわらず、交付日の属する課税期間末日の翌日から2カ月を経過した日から7年間保存する必要があります。[注4]

請求書の写しは発行のたびに増えていくため、7年間にわたって保存する場合、相応の保存スペースが必要になります。
書類の管理も大変なので、保存スペースが必要なく、かつ検索や閲覧、整理を楽に行える電子インボイスとして保存しておいた方が管理の手間を省けるでしょう。

[注4]e-Gov法令検索:消費税法施行令「第七十条の十三」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=363CO0000000360

適格請求書発行事業者になるならインボイス制度に対応した請求書を作成する必要がある

インボイス制度開始を機に、適格請求書発行事業者になる場合は、インボイス制度に対応した請求書の作成方法をマスターする必要があります。
適格請求書は、従来の請求書よりも記載項目が増えているので、新たに追加された項目の内容や書き方をしっかりチェックしておきましょう。

適格請求書は電子データとして作成・交付することも可能ですが、その場合、電子帳簿保存法に対応したシステムを利用する必要があります。
紙でも電子データでも、適格請求書は7年間の保存が必要になるので、きちんと整理してまとめておくことが大切です。

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